どうも、アベケン(@abekenblog)です。
自転車のトレーニングについて調べていると良く目にするLSD(Long Slow Distance)トレーニング。名前の通り「長時間・長距離をゆっくり走る」トレーニングですが、インターネット上を見ていると色んな意見があります。重要なトレーニングだ!と言ってる人もいれば必要ない!と言ってる人もいたり…。
また、ゆっくりってどれくらいやねん!とか、長時間ってどのくらいやねん!とか…こちらも会話ができるくらいとか、レースよりもゆっくりって意味だよとか、90分だったり4時間以上という意見もあったり…たくさんの情報が氾濫しているように見受けられます。
そこでこの記事では、運動生理学の観点からLSDトレーニングを行うことによる効果から、やる必要があるのか?必要な人はどんな人なのか?を考えてみたいと思います。
LSDによる生理学的適用
自転車を含む持久系競技の特徴として、競技時間が長く、運動強度が比較的低いことがあげられます。その為体内に(大量に!)蓄積されている脂肪をエネルギー源として多く利用することでより長く運動することが可能になります。
また、脂肪をエネルギーとして利用することで別のエネルギー源である糖質を温存することが可能になります。
糖質は運動強度が上がると積極的に使われるエネルギー源ですが、体内に貯蔵できる量が限られるために枯渇すると身体が上手く動かなくなります。ハンガーノックになったり、強度が上げられない状態になったり…人と競争している場合は致命的な状態と言えます。
その為競技として長時間運動する場合は脂肪をエネルギー源として活用できるようにしておき、糖質を温存しておくことが必要不可欠と言えるでしょう。
そこで、エネルギー源として脂肪を積極的に使うことができるように身体を適用させていくのがLSDの狙いとなります。
脂肪をエネルギー源として活用するための適応として、体内では様々な事が起こっていますがパフォーマンスを改善する適用としては以下の2点が主な内容となります。
・ミトコンドリアの性能改善
・毛細血管の新生・リモデリング
ミトコンドリアの性能改善
ミトコンドリアとは細胞内にあり、脂質と酸素からエネルギーを作り出す機関です。
LSDトレーニングによって多くの酸素を取り込みながら運動することを繰り返すことで、ミトコンドリアのエネルギー産生能力は向上します。強度が高くなっても脂質と酸素からエネルギーを作り出すことができるようになり、糖質の温存につながります。
また、ミトコンドリアの量自体もLSDトレーニングによって多少ですが増加します。(強度による)それによってより多くの脂肪からより多くのエネルギーを作り出すことができるようになります。
ちなみにミトコンドリア量をより多く増やしたい場合は高強度のトレーニングの方が優位であるという研究結果があるので、LSDトレーニングだけではなく様々な強度のトレーニングを組み合わせて行うのがベターと言えるでしょう。
毛細血管の新生・リモデリング
エネルギー源である脂質や糖質を細胞内に運ぶのは主に血管です。また細胞から排出される代謝物を運ぶのも血管です。LSDトレーニングを行うことでエネルギー源の輸送、代謝物の交換が積極的に行われるために毛細血管量が増えたり、血管の経路が最適化されたりといった変化が身体の中で起こります。
血管量が増えると血液の流れはそれだけ遅くなることが分かっています。流れがゆっくりになることで血管と細胞内でよりたくさんの交換が行われるようになります。そのためミトコンドリアにはより多くの脂質や酸素が届けられ、エネルギーを作り終わった後の代謝物はより多く血管から排出されるようになります。
LSDの強度は?
LSDトレーニングによって引き起こされる適応がわかったところで、どの程度の強度で行うのが適切なのでしょうか。
Vo2max強度の70%くらいとか、MaxHRの80%とか、色々な意見がありますがどの程度運動しているか?によっても違いがあり、個人差が大きい部分です。その為数字を基にして「このくらいの強度で」とやってみても人によって印象が全く異なります。
トレーニングしたことない人がVo2max70%強度で始めたら「いやこんな辛いの長時間走るの絶対無理!」ってなるし、逆にトレーニングいっぱいしてる人からすると「え?こんな強度低いん?」ってなったりもするので一概に言うことができません。
そのため大まかな目安として「会話ができるくらいの強度で」という表現になってしまいます。
もう一歩踏み込むと、トレーニング時に心拍計等で自分の心拍数やパワーメーターがある場合は自分のパワーを表示しておき、「会話できるくらいの強度だと自分の心拍数/パワーはこの程度」という自分なりの数値を把握しておき、自分なりの強度を決めることが大切です。
LSDの時間は?
LSDトレーニングは低強度・長時間のトレーニングになりますが「じゃあ長時間ってどんくらいやればいいのさ?」という疑問があります。
これにも個人差があるというのが私の意見です。
というのも、一言に持久系競技といっても競技時間は様々です。30分で終わる持久系競技から数日かかるような競技まであるため、それらに合わせた時間でLSDトレーニングを行う必要があると考えています。
LSDトレーニングに取り組むのであれば、なるべく長く…少なくとも競技時間と同じまたは競技時間よりも長い時間が必要になるのではないかと考えています。
とは言え競技時間が数日かかるような競技は競技時間よりも長いLSDトレーニングが必要か?と言うとまたちょっと別の話になりますが…(笑)競技自体が数日にまたがるような場合、競技自体の強度は非常に低いものと推測されます(高い強度ではそんな長時間運動できません)。その為、別にLSDトレーニングをしなくても競技練習の中で脂質が積極的に利用される状態が出来上がるので、LSDトレーニングとして取り入れる必要なないだろうというのが私の考えです。
何故競技時間と同じ、または競技時間よりも長い時間のLSDトレーニングが必要と考えるか?というと、時間経過に伴って動員される筋肉が増えていくからです。
強度が低い運動の場合、運動に動員される筋肉は元気な状態の時は遅筋が多く、疲労してくるに従って速筋が使われる割合が増えてきます。
最初に書いた生理学適応が起こるのは使用された筋肉内で起こります。その為時間が短いと速筋内で適用が起こりにくいため、目的にもよりますが速筋が動員され始めるくらいまでは続けるのがベターかなと。
とは言え「どのくらいやったら速筋が動員され始めるのさ!?」となると思いますが、ここも個人差が大きい部分です。
同じ強度で運動を続けていると、時間経過と共に心拍数は増加し、最初は会話できるくらいだと感じていてもだんだんと呼吸が荒くなってきます。
競技時間と同じ時間一定の強度で運動してみて、最後まで会話できるくらいの余裕が出てきたら少し強度を上げてみる…くらいの感覚で取り入れてみてください。
まとめ
LSDトレーニングで起こる生理学適用から、強度と時間について考察してみました。
強度が低くて取り組みやすい反面、多くの時間が必要になることから仕事や家事と並行して実施するのは難しいトレーニングでもあります。
その場合は、土井雪広元プロロード選手が著書の中で述べているLMD(Long Middle Distance)トレーニング:LSDよりも強度を上げて時間を短くするトレーニングも有効です。生理学適用は若干異なるものになりますが、基本的な考え方(エネルギー源として脂肪を積極的に使うことができるように身体を適用させていく)は変わりません。
またLSDトレーニングだけでなく高強度のトレーニングと組み合わせることでレースや競技の強度に耐えうる身体を作っていくことが大切ですので、LSDトレーニングの役割を理解した上で必要性を感じた場合は取り入れてみることを検討してみてください。
参考文献
NSCA Strength Training & Conditioning 第4版
心拍トレーニング:個人のデータと目的に基づくトレーニングプログラム
編集後記
在宅ワークが始まってはや2年。先日久しぶりに出勤したんですが電車での通勤がものすごく億劫に感じてビックリしました。
すっかり在宅ワークに適応しきってしまい、連日出社する以前の生活スタイルに戻せと言われたら相当苦労するな…むしろ生活スタイルは戻したくないな…と強く感じるようになりました。
ノマドワーカースタイルがここまで良いものだと実感する反面、自分で自分をコントロールできないとあっという間にダメになるなーとも思うので、人によって向き不向きがあるんだろうな…。